新型インフルエンザ

 愛知県で3名の発症者が出た。私の学校でも注意勧告があった。「手洗い・うがいを以前にも増して念入りにやるように」と。しかし,私はその方向性は違うんではないかと思っている。「私の学校」での話ではなく,また「日本」でのということでもない,大袈裟かもしれないが,人類の方向性として間違っていると思うのだ。
 ウィルスは人間の歴史よりはるかに古い。ずいぶん後になって哺乳類や人類がこの地球上に現れ,それ以降,わたしたち人類は先輩であるウィルスと何とか共生してきた。時には仲良く共存したり,時にはやっつけたりやっつけられたりしながら,お互いに絶滅しない程度に闘ってもきたと思うのだ。両者の平衡を保つ力関係を維持しつづけてきたのは,間違いなくお互いの「体力」である。言わば、素手で闘って"いい勝負"になる好敵手,それがウィルスと人類なのだ。
 そんないい平衡関係でいたのに,いつからか人類は素手で闘うことをやめて,マスクや洗剤・薬品という武器を使うようになってしまった。いったん武器に頼るようになると体はどうしても弱体化していく。体が弱くなれば,闘うのにさらに強力な"武器"が必要になる。実はこうした悪循環がもうすでに始まっているような気がする。
 今回の新型騒ぎの前から,外から帰ったら念入りに手を洗わなければ気がすまない人を,私は知っている。素手ではドアのノブを触れない人がいる,ということを聞いたことがある。こういう人々は,少々の病原菌やさまざまなウィルスと共存するだけの力がもうないかもしれない。こんなふうになってしまってこの先,人類の明るい未来はあるのだろうか。
 ちょっと前,10年とか20年とかそのぐらい前の人間(日本人)だって,神経質に手洗いなんかしなくてもちゃんと生きていた。いわんや,50年前100年前の人間はどうだったか。ウィルスといっしょに上手に生活していたことを,想像するのはそんなに難しいことはないと思う。
 もともとの人類は手なんか洗うことなく,食べ物といっしょにウィルスをいっぱい体内に取り込んでいたんですよ,きっと。