景気予測も愚問のひとつ

 インド思想の偉いところは,世の中には「愚問」が存在する,愚問は立てるな,答えるなという点で,これは科学的探求心美化の思想とは違っています。愚問を立てれば立てるほど精神が混濁する。せっかくの頭脳が横の方へいってしまう。もっと賢い問題を考えなさい,ということだと思います。(略)
 私の今の仕事でいえば,景気はいつよくなるか,金利はいつ上がるか,アメリカの本当のねらいは何かなどの質問を受けるが,多くの場合私は答えない。
「景気がよくなったって悪くなったって,あなたの商売にはほとんど関係ないだろう。毎日,新聞が書きたてるから知りたくなっただけだろうが,そんなに大きな変化はないし,気にしなくてもいい問題だ」といってやります。
 わからないから答えないのですが,多くの解説者はわからなくても答えている。毒矢のたとえ話はいいですね。
 経済企画庁は,いつの頃からか景気予測を仕事にしたが,その上,いつの間にか景気好転請負業までやるようになった。愚問に答えすぎた悲劇でしょう。(日下公人